はじめに
投資本*のなかには、日常生活の中で気になった商品やサービスに着目して投資する手法が推奨されているものがあります。
これは、B to C(対消費者)ビジネスにおいて、決算発表で数字を確認するアナリストよりも、消費者の気付きのほうが、情報の鮮度という観点で優れている場合があるためです。
*『賢明なる個人投資家への道』(かぶ1000)・『ピーター・リンチの株で勝つ』(ピーター・リンチ著)
もっとも、注目したサービスが実際に世の中で広く使われているかどうか、その普及状況を見極めることは非常に重要です。感度の高い少数の層だけでなく、マス層にまで届いているのかどうかを丁寧に観察する必要があります。
そのための手段として、近年注目を集めている「オルタナティブデータ」について、『入門オルタナティブデータ 経済の今を読み解く』(著:渡辺努)を参考にしながら整理していきます。
そもそもオルタナティブデータとは何か
オルタナティブデータ(代替データ、高頻度データなどとも呼ばれます)には明確な定義はありません。一般的には、POSデータ、クレジットカード利用情報、位置情報、衛星画像など、従来あまり活用されてこなかった非伝統的なデータ群を指します。
これまでの伝統的な経済指標は速報性や網羅性の面で課題を抱えています。集計の工数などから、サンプリング数が少なったり、そもそも時間が掛かって情報の鮮度が落ちてしまうことも考えられます。
たとえば、日本の消費者物価指数(CPI)は月に1回、約1カ月のタイムラグを経て公表されます。一方、ナウキャスト社はスーパーのPOSデータを用いることで、2日程度のタイムラグで「日経CPI Now」を算出・提供しています。
これにより、政策判断や市場予測において、よりタイムリーな判断材料が得られるようになっています。
これは少しマクロ的な視点ですが、後述の通り、個別株の分析にも役立つと考えられます。
オルタナティブデータの信頼性と留意点
オルタナティブデータを活用する際には、以下のような点に注意が必要です。
- サンプリングバイアス
特定の地域や年齢層、利用者層に偏ったデータでは、全体を正確に反映できない可能性があります。 - 観測対象の特性変化
たとえば、工場における人の位置情報から稼働率を推定していたケースでは、省力化投資の進展により工場の無人化が進み、従来の推定手法が通用しなくなるといった現象が起きています。
こうした課題をクリアするためには、データの裏側にある構造や文脈を理解したうえで、複数の指標を組み合わせて総合的に判断するアプローチが求められます。
実際に、自動車メーカーの生産活動をリアルタイムで集計し、それに基づいた投資戦略の構築が試みられており、データドリブンな意思決定の可能性が広がっています。

興味深い活用事例
いくつか注目すべき事例として、以下のようなものが挙げられます。
- 鉄鋼工業生産指数と大口電力受給量の相関性
鉄鋼業は大量の電力を消費するため、電力使用量の変化をトラッキングすることで、製造活動の強弱を推察できます。
*入門オルタナティブデータ 経済の今を読み解く より
- 夜間光指数と工業生産指数の関係
夜間に人工光を多く放つエリアは経済活動が活発である傾向があり、衛星画像を活用して地域経済の動向を把握する研究も進んでいます。
*入門オルタナティブデータ 経済の今を読み解く より
活用イメージ
- テーマパーク来場者の推計 最寄り駅やパーク内の通行量や位置情報を活用することで、混雑状況や需要予測に応用することも可能と考えられます。
- 特定商品の売り上げ予測 コロナ禍の際には乳酸菌飲料(ヤクルトや明治R1) が良く売れました、特定の商品のPOSデータを活用すればより速報性の高い情報から投資判断をすることもできます。
おわりに
オルタナティブデータは、従来の経済統計では捉えきれない「今」の経済の動きを可視化する可能性を秘めています。個人投資家にとっても、こうしたデータを活用することで、より先回りした投資判断や仮説構築が可能となるかもしれません。
もっとも、データを「鵜呑み」にするのではなく、その背景や前提を理解したうえで活用するリテラシーが求められます。投資における情報感度を高めるためにも、日常の中で触れる「兆し」とデータを結びつける視点がますます重要になっていくでしょう。
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